自動車検査向けEdge AIビジョン

専用AIハードウェアによる自動車の品質管理変革と、マルチカメラ・低遅延エッジ分析の実現

近年、AI対応のビジョンシステムは自動車検査の分野を根本から変革してきました。高度なAIモデルと毎秒数千枚の画像を解析する最新カメラシステムの組み合わせにより、車両の塗装の微細な不具合まで製造過程でリアルタイム検出することが可能となっています。生産中の検査がリアルタイムで行われることで、自動車業界全体の品質水準が大きく向上しています。

同様に、これらのシステムは自動車保険会社でも活用でき、事故申請の処理時間を大幅に短縮できます。AI画像認識は、顧客がアップロードした画像から車両損傷を速やかに検出・評価・分類し、手作業によるチェックが不要となります。修理工場も知能的な画像解析によって損傷箇所の特定や修理費用の計算が正確に行え、車両のダウンタイム短縮と透明性向上された見積りで顧客満足度が高まります。

エッジでリアルタイムにAIモデルを処理

エッジコンピューティング・プラットフォームは、現代の生産現場でAIビジョンに欠かせない役割を果たしています。クラウド処理とは異なり、これらのプラットフォームはデータが発生するカメラや画像センサーのすぐ近くで稼働し、高速カメラからの毎秒数百/数千画像のストリームを、AI推論加速器でリアルタイム解析します。

こうした映像解析パイプラインでは、CPU・GPU・ISP・VPU・NPU・AIアクセラレーターといった各種ハードウェアを組み合わせ、アプリケーションの必要に応じて最適な処理効率を実現します。通常、元画像や動画はローカルメモリに格納され、CPU/VPU/ISPでノイズ除去やフレームのバッチ処理など前処理が施されます。続いて処理済みデータがAIモデル/アルゴリズムに最適化されたアクセラレーターへ送られ、欠陥や物体認識などの推論が行われます。推論結果は共有メモリに書き戻され、CPU/VPU/ISPで後処理され、表示や制御ループ、他の品質管理サブシステムへ出力されます。

図1

図1. SOM-COMe-BT6-RK3588に搭載されたAxelera Metis AIPUは最大214TOPSのAI計算性能を発揮し、8台のHDカメラ映像を同時処理しつつ文字認識・物体検出もリアルタイムで行えます。

AIアクセラレーターと、最適化されたオンボードメモリアーキテクチャの組み合わせにより、小型エッジデバイス上で複数映像ストリームを低遅延で処理可能になります。代表例がSOM-COMe-BT6-RK3588というCOM Express Type 6 Basicモジュールで、120×95mmの省スペース設計がAIビジョン用途に理想的です。強力なRockchip RK3588 CPU(Arm Cortex-A76×4、Cortex-A55×4、Cortex-M0×3)、最大32GB LPDDR5、Mali GPU、NPU、VPUを搭載しています。

特筆すべきはAxelera AI Metis AIPUです。ベンチマークでは最大214TOPS、1ワットあたり約15TOPSを達成しており、24台のカメラストリームのリアルタイム物体検出も一台のエッジデバイスで処理可能な高効率ハードウェアです。

SECO COM ExpressモジュールとしてMetis AIPUは実運用で最大120TOPSのAI性能を開発者に提供します。内蔵Rockchip RK3588 CPUは4台までのカメラをサポートし、MIPI CSI-2仮想チャネルによる仮想化・集約技術でさらに拡張可能。これにより、自動車検査分野向け高性能AIビジョンシステムを容易に構築できます。

映像解析のためのAIアクセラレーションの活用

高性能なエッジAIビジョン開発を容易にするため、Axelera AI Metis AIPUはVoyager SDKによりサポートされています。このソフトウェアスタックはAIパイプラインの自動コンパイル・最適化・デプロイを実現し、LiteRT(旧TensorFlow Lite)やPyTorch等主要フレームワークにも対応しています。

開発者はMetisの能力を幅広い用途で活用でき、自動車検査領域のOEMやシステムインテグレーターは同じ基盤上で多様な実装を柔軟に選択できます。

実装例としては、2台の外部クワッドデシリアライザとMIPI-CSI VCを使い、SOM-COMe-BT6-RK3588の2系統オンボードCSIコネクタ経由で最大8台のカメラストリームを集約します。

Axelera AIは実機テストにも役立つ豊富なGitHubライブラリを提供しており、8×1080p60、4×4K30、1×8K30などのデモプロジェクトも充実しています。

図2

図2. SOM-COMe-BT6-RK3588は幅広いI/O拡張に対応しており、製造ラインの検査用途ではキャリアボード上にクワッドデシリアライザを追加し、MIPI Virtual Channels (MIPI VC) で最大8台のカメラストリームを集約できます。

シナリオ推定スループット・遅延Axeleraデモ例
8×1080p@60 FPS(物体検出+軽度OCR)Metis AIPU(~120TOPS)でリアルタイム処理
遅延20~40ms/ストリーム(デコード/リサイズ6~12ms、検出6~15ms、OCR2~6ms、後処理2~5ms)
多数同時ストリームに最適化、1080p YOLOv8Sは120TOPS以内で快適に稼働。
4×4K@30 FPS(カスケード検出+セグメンテーション)ROIカスケードでリアルタイム
ROI数に応じて遅延35~70ms
fruitデモのカスケードパターン、ROI高解像度クロップしてセグメンテーション。
1×8K@30 FPS(表面検査)タイリングによる準リアルタイム、数百tile/s8Kタイリングデモ。AIPU増加で処理能力拡大可能。
多数短尺MIPI/USBカメラ(例:12×720p)I/O・ホスト前処理が制約、AIPUは大きな余力16以上のストリーム並列処理、RK3588の多系統CSI/USBコントローラが入力を担当。

表1の通り、Metis AIアクセラレーターは1~8系統のHDビデオストリームをリアルタイム推論処理可能。標準画質カメラでも12台以上同時処理が可能で、余力を十分残しています。

エッジAI自動車検査の新たな可能性

SOM-COMe-BT6-RK3588に専用AIアクセラレータを組み込み、SECOはCOM Express規格が次世代のエッジAIマシンビジョン・自動車品質管理プラットフォームに対応できることを示しました。これにより、高スループット・高効率・低遅延のスマート製造環境――自動車業界の未来を牽引する新たなシステムアーキテクチャ――が実現します。

SECOのAxelera AI技術対応エッジプラットフォームについて詳しくは、seco.comSECO App Hubまで。